これは私ではない、あの少女の話である。
あれはそう、高校2年生9月、夏のことだった。
遅刻ギリギリで、正門を門番の如く鋭い目を光らせている体育の教師のせかす声と共に横切る。
私は物心ついた時から妄想が大好きだった。
大好きというか無意識に考えてしまうのである。
例えば、それこそ遅刻ギリギリの時に今日こそ角で運命の彼と出会うんじゃないか!とか。
深くふかーく深層まで考えてしまうこともあれば、すぐに止める時もある。
そんなこんなで教室に駆け込む。
危なかった。残り2分だった。
寝不足なだけあって、1、2、3、4限とあまり記憶がない。
おそらく起きていたとは思うが。
私は不真面目では無いしどちらかと言うと真面目だと思う。
きちんと起きていたと信じてる!
ノートを見たら読解不可能な字で、よれよれになった線が1ページの世界を突き抜けていた。
それすら記憶がない私が情けない。
昼食を食べ終え、5限を受けていた。
今日の5限は現代文。
うちのクラスを担当している現代文の先生は、50代か60代くらいの恰幅のいいおじさん先生で、その特徴はなんと言っても優しいオーラと眠くなる声だ。
飛び出たお腹の真ん中辺りから出てるであろう、低音と中音が心地いい丸みの帯びた声だ。
寝不足であり、昼食を食べ、その声を浴びせられ私の眠気はピークに達していた。
こんなの拷問じゃないかとすら思った。
そんな最中にも私の妄想は止まらない。
朦朧とした意識の中、もはや夢が妄想かも分からなくなっていた。
私には架空の好きな人がいる。
妄想の中に生きている私は架空の人物を作ることくらいおちゃのこさいさいなのだ。
彼は1つ上で、おそらく私は眼中にない。
ようは片思いなのだ。
The タイプな人という訳では無いがどこか惹かれるものがあり、振り向いてくれない悲しみを持ちつつも、優しくてクールな彼だが少し不器用なところが甘さとしょっぱさのハーモニー様なクセになっていた。
私はちょろいんだろうか。ばかなんだろうか。
振り向いてくれないと分かっていて好きになることの愚かさをお許しくださいとまで思っていた。
彼と話していても私だけが楽しい思いをしていて、彼はどこかつまらなそうな顔を見せるときがある。
その度に
「どうしよう〜!彼つまんなそ〜〜⤵т т」
と焦るのであった。
5限が終わるチャイムで視界が開けた。
どうやら寝てしまっていたようだ。
「ほら〜おきなさ〜い」
と起こす気のないむしろ寝かしつけるような声で呼びかける。
周りの人もさすがに寝てる人が多かったみたいだ。
6限の英語はさすがにほぼ一日寝ていたこともあって目は覚めていた。
周りを見るとまだちょくちょく寝ている人がいた。
今日はいつもよりも涼しい日だった。暑い事には変わりないが。
窓が空いていて吹き込む風が心地よかった。
授業の後半は小テストがあり、ちゃちゃっと終えぼーっと外を見ていた。
そんなときはもちろん妄想をしていた。
アイスクリームが溶けるその瞬間を、世界の差別を、宇宙の未開の地を、隕石が落ちる様子を、今晩の夕飯を、妄想していた。
もしかすると私の存在すらも妄想なのかもしれない。
考え始めたらキリがないことをただひたすらに、秒針が許す限り考えていた。
私は妄想に生きている。
これがきっと私の日常なのだ。
絶望を醸し出して実は絶望していなくてスパイス程度に絶望している。
ちょっぴりの後悔や悲観ではない。
スパイスな絶望だ。
下校、私は夕飯の妄想の答え合わせをするべく急いで帰るのであった。
明日の3限、体育に体操服を忘れないように妄想に組み込むのであった。
私の妄想の日常。