冬我慢大会 開幕宣言

戦争は怖いし、包丁を洗うのだって怖い。

意味の無い口づけなんてしない。

思春期じゃあるまいし、大切な人の命が脅かされない限り「死ね」なんて出てこない。

心を奪う一言も、誰かを殺す一言も、全部言葉なのが怖い。

 

遠くに見えた丘はどこか夢のようだった。

ある意味それはまさしく夢、偽物のようだった。

あの子が嬉しそうにスキップするから、もう死んでもいいと思えた。

追いつかない日々の足を必死に掴んで引きずられていても、擦れた膝の痛みさえ忘れてしまうような残酷さは見るに堪えない。

現実だと思ったのなら、それは本当に地獄なのかもしれない。

少しだけ背伸びしようとしたのなら、途端に重力を感じる。

リンゴが落ちるという物体的な重力すら越えて、心の風景が黒に染っていくのが見える。

それでも光は残っている。確かにある。

少しだけ自分を超えてみたいなって思ったのなら、その衝動に身を任せたい。

 

中途半端な自分がいちばん嫌いだ。

だってそんなの自分に合わせる顔がないじゃないか。

どうやって自分と向き合ってあげたらいいんだ。

張本人の主張なんてエゴイズムにしかならない。

悲しくなった「夜」に愚痴る。

私だって本当はあなたと居たい。

私だって本当はあなたを守りたい。

抗えないもののせいにしてしまっていたのならごめんなさい。

 

すれ違う人達が軽々しく嘘をついた。

本当は1人になるのが怖いだけだった。

愛なんて知らずに、ただ口の動きに合わせて組み合わせた言葉が脆いことくらい誰でもわかる。

尖ったものが自分の横っ腹を殴ったり、刺したり、引っ掻いたりするのは耐え難い。

運命を悟る前にできることがあるはず、と思う。

 

自分から遠のいてゆくあの子がとても怖かった。

どこか知らないところまで行ってしまって、自分なんか手が届かなくなってしまった辺りでようやく等身大がわかる。

それでも全うしなきゃいけない「自分」がどこか不甲斐なく思えたり、それでもやれるって思ったり、でもやっぱり少し心もとなかったり。

もじもじくんじゃないのに当事者意識を持った途端に方向性を見失う。

それでも声が照らしてくれることがなにより。

 

私の砦、悪夢にだけは負けたくない。